+Be there−後編− +              





自分は彼の特別なんだ……と心のどこかで思っていた。

それは彼の態度や仕草、会話の内容どれをとっても言えることで、決して自惚れなんかじゃない。

だから好きだと言った時、少なからずいい返事が貰えるものだと思っていた。

だが現実はそう上手くはいかない。

偶然にも好きな奴が告白されている現場を目撃してしまってその考えが思い上がりだということを知った。

デュオは誰にでも優しい。

それは自分だけではない……。

俺はデュオを見ていたが、デュオが見るものまでは見えていなかった。

告白した女に笑っていたデュオ。

笑ってもらえなかった自分。

好きな相手に笑いかけてもらえない悲しさを初めて知った。

そしてどれだけデュオに甘えていたかを知った。

相手に振り向いてもらえない寂しさ、思いが伝わらないもどかしいさ。

デュオもそんな思いを感じていたのだろうか。

知らなかったとは言えひどい事をしたと思う。

だからデュオは自分の思いに応えてくれなかったのだろうか……。















クシャクシャになった書類を出来るだけ伸ばしレディに提出した。

それを見て少し眉を吊り上げたレディだったが結局何も言わずに受け取った。

パラッと捲りOKサインが出た所で部屋を後にする。

デスクに戻る途中デュオの姿を見掛けた。

(今は会いたくない……)

幸いにもまだデュオは気づいていない。

だがクルっと向きを変えて歩き出そうとした時「ヒイロ」と名前を呼ばれた。

ゆっくりとデュオの方に向き直り「何か用か」という表情を向ける。

一瞬動きを止めたデュオだが気を取り直してこっちにやってくる。

「あのさー。」

話かけたはいいがどうやって先を続ければいいのかと思案しているデュオ。

(やはりそうか)

デュオはこの間の返事を言おうとしている。

言い難そうにしているのはどうやって断れば俺が傷つかないかと考えているのだろう。

そうじゃなければそんな難しい顔はしていないはずだ。

俺は振られると分かっている答えを聞くほどまだ人間が出来ていない。

(今は何も聞きたくない)

全身がそう告げている。

「こないだの事なんだけどさー。」

俺の気持ちなど知る由もなくデュオは話を切り出した。

(駄目だ、その先は聞きたくない)

「いい。」

それだけ言うのが精一杯。

俺はデュオに背を向けて反対方向に歩きだす。

「いいって何だよ。」

その台詞にピタッと足が止まる。

だが振り向くことは出来なかった。

それにしびれを切らしたのかツカツカとデュオが大股で歩いてきて俺の肩を勢いよく引いた。

重力に逆らわずにデュオの方に向き直る。

「いいってどういう事だよ!」

掴んでいた肩をドンと押されることでデュオが怒っていることがわかる。

それでも何も言わない俺に更にデュオが続けた。

「からかってたのかよ?」

「違う。」

「だったら何だよ!」

間髪入れずに問い質してくるデュオは逃がしてくれそうにない。

はぁと思わず溜息が洩れた。

(振られる事がこんない怖いものだとはな……)

覚悟を決めてデュオを見た。

「さっきの女と付き合うんだろ。」

だから返事はいらないし、聞きたくない。

「さっきって……見てたのかよ?」

「見ていない。偶然通りがかっただけだ。」

「でも見たんだろ。」

「………。」

「で、オレがその子と付き合うと思ったのか?」

「違うのか?」

「お前最後まで見てなかったのかよ?」

(お前が返事するところなんか見たい訳がない)

何故自分の好きな奴が他の奴と付き合う瞬間なんか見ていなければいけないんだ。

「お前って、肝心なとこ抜けてるよなー。」

先程とは違い雰囲気が柔らかくなった。

「もしかしてオレがあの子と付き合うと思ったから返事聞きたくなかったのか?」

図星を指されて何も言えない。

そんな俺を見てクスっと笑うデュオの表情に見惚れた。

「断ったよ。他に好きな人がいるからって。」

はにかみながらそう告げるデュオに対して俺の表情は強張った。

(あの女じゃなければ他に好きな奴とは誰だ?)

ますますデュオの考えがわからない。

「おいおい、その顔はもしかしなくてもわかってないだろ。」

「………。」

(やっぱちゃんと言わなきゃわかんねーか……)

デュオの想いなど知る由もない。

「お前のことなんだけど。」

「?」

何の事を言っているのか。

「だーかーら、好きなヤツ!お前なんだけど!」

最後は半分自棄なのかドスが聞いていた。

何度も言わせんなよ!と少し照れながら言うデュオを、俺は信じられないとばかりにマジマジと見つめた。

今まで嫌われる様な事は散々してきたが、好かれる様な事をした覚えがない。

(これは新手の嫌がらせか?それとも何かの報復か!)

嫌われてはいないと思っていたが、それも間違いだったのか……。

俄かには信じられないでいた。

「お前信じてないだろ?」

「?!」

見透かした様な鋭い言葉が飛んできた。

「本当だって。なんてったってオレは逃げも隠れもするが嘘はつかないデュオ・マックスウェルだぜ!」

「……そうだな。」

そう言って笑うデュオにつられて笑顔を向ける。

「だが、逃げも隠れもしないでもらいたいものだな。」

「うっ……ま、まぁそいつはお前さん次第だな!」

「……気をつける。」

その答えが面白かったのかデュオが笑っている。

自分にも笑いかけてくれている。

今はそれで十分だった。

「じゃ、とりあえず仕事に戻りますか。」

「………。」

今はまだ仕事中だと言う事をすっかり忘れていた。

(俺としたことが……)

もっと一緒にいたいが流石に時間が立ち過ぎていた。

腕時計に目をやって時間を確認する。

「終わったら……。」

終わったら?その後に続く言葉が見つからない。

こういう時は何て言えばいいんだろう。

「終わったら飯でも食いに行こうぜ!」

俺の言いたい事を分かってくれているのか、いいタイミングでデュオがカバーしてくれる。

「ああ。」

俺の返事を聞いて、デュオは「じゃあな」と言って戻って行った。

聞いてもらいたい事や聞きたいことが沢山ある。

今夜は長くなりそうだ。










あとがき
完結です。最後がいまいちなのはいつものことです……(汗)
デュオに嫌われてないとようやく信じることが出来たヒイロ氏。
でもまだまだ聞きたいことだらけなのです。
今夜あたりそれを逐一聞き出しているのではないでしょうか?(笑)
傍から見たら好かれてるってのすぐにわかるんだけどねー。
恋する男は違う意味で盲目なのです(笑)

2007.07.21     葵